3つの問いでわかる、自分らしいキャリアの考え方|キャリア・アンカーから学ぶ

皆さんは「キャリア論」についてどれくらいご存知でしょうか?

転職を考えている方はもちろん、思わぬ異動や出向に直面している方、出産や育児などの事情を経て仕事に復帰しようとしている方など、仕事人生の節目で直面するのが、キャリアの問題です。

「自分はなにに向いているのか」「なにをしているとハッピーなのか」「どのような仕事を望んでいるのか」。キャリア論は、そういった思考を助けるツールや視点を提供してくれます。

監修:笹本 香菜(Sasamoto Kana)
北海道函館市生まれ。小樽商科大学を卒業後、同大学修士課程、博士課程に進学。経営学を専攻し、企業に対するフィールドワークに携わる。その後、国立大学に入職し経営戦略論担当助教として研究・教育に従事。2019年、地域密着型のビジネスで「人と企業の永続的な成長」を実現しようとする姿勢に強い魅力を感じ、リージョンズ株式会社に入社。

キャリア論は役に立つか

そもそもキャリア論は、心理学や社会学、経営学など様々な学術領域で提唱されてきた理論で、その歴史は100年に及びます。我々が国家資格であるキャリアコンサルタント資格を取得するうえでも、学習必須の領域です。

とはいえ、理論と聞くと、「机上の空論」「非現実的」「役に立たない」というイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。キャリア論は、個別の事象に対して正しい答えをくれるわけではありません。ただ、少なからず良い実践を生み出すためのガイドラインを与えてくれます。自分の状況に応じて、その都度複数の理論からヒントを得ながら、人生を設計していくイメージです

とくに、昨今は、先進国で生まれる子供の2人に1人が100歳以上生きるとされる「人生100年時代」の到来が予測されたり、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて「リモートワーク」や「ジョブ型雇用」が急速に広まったりするなど、キャリアの長さや、キャリアの前提となる働き方が大きく変わりつつあります。そういった複雑な状況下でこそ、理論は自身のキャリアを考えるためのヒントを与えてくれるはずです。

今回は、キャリアというものを考える上で役に立つ理論の一例として、シャインの「キャリア・アンカー」という理論を紹介します。

エドガー・シャイン「キャリア・アンカー」

この記事を読んでいる方の多くは転職を検討されていると思います。転職を考える理由は人それぞれにしろ、自分がこれからのキャリアをどのようにしたいかを考える節目にいるのは共通しているはずです。自分らしいキャリアを歩むためには、まず、自分にとって何が大事で、何が大事でないかを知る必要があります。

そういったキャリア観を確かめる際に有効なのが、キャリア論の大御所であるマサチューセッツ工科大学(MIT)名誉教授のエドガー・H・シャインが提唱した「キャリア・アンカー」という考え方です。

アンカーとは英語で「錨(いかり)」の意味です。キャリア・アンカーは自分自身が大事に思っている価値観であり、個々のキャリアの拠り所を指します。瞬間的な好みや環境の変化、ライフステージによって変化するものというよりは、自身にとっての核になりうるような普遍的なものです。そのため、なるべく早いタイミングで自分の核を理解しておくことで、満足度の高いキャリアや働き方を選択しやすくなるのです。

「自分らしいキャリア」を知るための3つの問い

では、突然ですが、あなたのキャリア・アンカーを知るために次の3つの問いについて考えてみましょう。

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① 自分はなにが得意か?
② 自分はいったい何をやりたいのか?
③ 自分はどのようなことに意味や価値を感じるか?

これらの3つの問いは、「能力」、「欲求」、「価値」についての自己イメージを表したものです。

①自分はなにが得意か?ー 能力

まず「能力」について解説します。

客観的にできる・できないではなく、自分が得意でうまくできると思っていることという視点で考えてみてください。あくまでも能力についての自己イメージを形成することが目的です。

それは、語学力やプログラミング技術、機械操作といったテクニカルなスキルかもしれませんし、コミュニケーション力やマネジメント力といったヒューマンスキルかもしれません。自分が認識している自分の能力を挙げてみましょう。

②自分はいったい何をやりたいのか?ー 欲求

「欲求」は、自分が何をすればワクワクできるかを考えてみましょう。

注意が必要なのは、人はしばしば、自分が得意なことを好きなことと勘違いしてしまうということです。例えば、英語ができる人は語学が好きだと思いがちですが、本当に求めているのは語学ではなく他言語を話す人とのコミュニケーションかもしれません。そういった意味で、本当のところ「自分がいったい何をしたいのか」というのは、自分と向き合い、自分の奥深くに問いかけることが必要な難しい問いなのです。

まずは、自分の得意なこととは切り離して、これまでのキャリアを振り返り、夢中になれた出来事や高揚感・達成感を得られたエピソードなどから思い浮かべてみるのが良いでしょう。

③自分はどのようなことに意味や価値を感じるか?ー 価値

最後の「価値」は、自分が長期的な視点から何に価値を見出すことができるかということです。

ここでは“長期的に”という点がポイントになります。うまくできるし好きだと思ってやっている仕事なのに、このままでいいのかと何か違和感をもっている人がいるとすれば、それは、自分が求めている価値を見出せていないからかもしれません。

自分の欲求(やりたいこと)について「どうしてそれをやりたいか」という視点や、社会に対してどのように役に立ちたいかという視点で考えてみることは、自分にとっての価値を紐解くヒントになります。

大事なことは、自分がどのような「能力」、「欲求」、「価値」を持っていて、どのような優先順位を持つことが、自分に相応しいかを自己認識することです。皆さんのように転職というキャリアの節目を迎えている方は、特にこういった自己認識が、これから待ち受ける大きな選択の助けになってくれるはずです。

キャリア・アンカーの8分類

なお、シャインは、最終的に上記の問いから導き出されるキャリア・アンカーのタイプを具体的な8つのカテゴリーに分類しています。

もちろん、自己認識は人それぞれ異なるものなので、「自分はこのカテゴリーに近い」「私はこのカテゴリーとあのカテゴリーのハイブリッドかもしれない」など、あくまでも思考の整理の参考とするのがよいでしょう。

①専門・職種別コンピタンス

自分の専門性や技術の向上を求めるタイプです。高いスキルを身に付けることに魅力を感じ、特定の分野でのスペシャリストを目指すことを求めます。そのため、自分の専門性や技術を発揮する機会が減るマネジメント職には、関心が低い傾向があります。

②全般管理コンピタンス

このタイプは、組織の中で責任ある役割を担うことに意味を感じます。リーダーや管理職としてチームをまとめたり、高い役職まで上り詰めたりすることに充足感を覚えます。

③自律と独立

このタイプは、士業や研究職、フリーランスなど、自分で裁量を持って仕事ができる環境を求めます。堅苦しいルールや規律のある組織よりも、柔軟性と自由度の高い環境で力を発揮するタイプです。

④保障・安定

安定した仕事や報酬など、安定性を最も重視するタイプです。安定的に1つの組織に腰を据えることや、大企業や公務員のキャリアを望む傾向があります。

⑤起業家的創造性

新しい製品・サービスの開発や、クリエイティブに新しいことを生み出すことに価値を感じるタイプです。そのため、このタイプの方は、起業や独立を目指す方が多くいます。

⑥奉仕・社会献身

このタイプは、社会を良くしたり他人に奉仕したりすることに対する欲求が強いタイプです。自分の能力を発揮できる仕事よりも、医療や福祉など社会貢献性の高い仕事に価値を感じ、惹かれる傾向にあります。

⑦純粋な挑戦

解決困難な問題に挑戦することに充足感を覚えるタイプです。特定の仕事や専門性にこだわらず、今までに誰も成し遂げることができなかったミッションにチャレンジできる環境を求めます。

⑧生活様式

個人的な欲求だけではなく、家族と仕事とのバランス(ワークライフバランス)を大切にするタイプです。在宅勤務や育児休暇制度など、柔軟な働き方ができ、福利厚生のしっかりしている企業に惹かれる方が多い傾向にあります。

働き方の多様化が進む今だからこそ「自分らしいキャリア」を知っておきたい

ここまでシャインのキャリア・アンカーについて解説してきました。

実は、シャインがこのコンセプトを提唱したのは、今から44年前の1978年です(『キャリア・ダイナミクス』白桃書房, 1978年)。しかしながら、政府の働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、働き方の多様化が進む今こそ「自分らしいキャリア」をしっかり考えることが求められています

たとえば、昨今、日立や富士通など日本企業でも導入が進んでいるジョブ型雇用。従来は、職務や勤務地などを限定せず雇用契約を結び、雇用された側は企業から割り当てられた職務に従事するというメンバーシップ型雇用が一般的でした。それに対してジョブ型雇用は、明確なジョブディスクリプションのもとに雇用されるシステムです。企業が人材を採用する際に職務、勤務地、勤務時間などの条件を明確に決めて雇用契約を結び、雇用された側はその契約の範囲内のみで働きます。雇用の流動化や企業のDX推進を背景に、専門人材の確保に適した雇用形態として注目を集めています。

転職先選びにおいて、こういったジョブ型雇用を採用する企業に直面した際にも、キャリア・アンカーの考え方は有効です。先のカテゴリーでいえば、<専門・職種別コンピタンス>タイプの方は自らの得意領域に特化した業務に打ち込めるため、自分の求めるキャリア形成がしやすくなります。一方でジョブ型雇用は仕事がなくなる可能性があるため、<保障、安定>タイプの方は入社後のミスマッチが懸念されるでしょう。

この他にも、副業・兼業、フルリモート勤務などが一般的なものになりつつありますが、どういった働き方がベストなのか、自分の求めるキャリアと照らし合わせて選択していくのがよいでしょう。

まとめ

自分らしいキャリアについて、イメージが膨らみましたか?冒頭にも記した通り、キャリア論は、どの選択が正解なのか、正しい答えを提供してくれるわけではありません。ただ、キャリア論を活用することで、あなたが理想とするキャリアに一歩近づくためのヒントを得ることは可能です。

今回紹介したシャインの「キャリア・アンカー」は、あくまでも一例です。その他にも、代表的なもので言えば、パーソンズの特性因子論、ホランドの特性因子学、スーパーのキャリアレインボーなど多種多様な理論があり、今もなお、様々な学術領域でキャリアについての新たな理論が提唱されています。

もし現在の職場で行き詰まりを感じている方、転職活動で選択に迷っている方がいれば、是非理論にも目を向けてみてはいかがでしょう。新たな気づきや閃きが得られるかもしれません。

参考文献:
・中川浩, 中川久恵, TEPPEI, 村上海介『国家資格キャリアコンサルタントの基礎理論』秀和システム, 2020年.
・金井壽宏『働くひとのためのキャリア・デザイン』PHP研究所, 2002年.

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