転職は人生の転機だからこそ、「あれも・これも」と多くを求めたくなるものです。しかし明確な基準を持っていなければ本来の目的を叶えることができず、転職後に「こんなはずではなかった」と後悔するかもしれません。そこで、自分なりの判断基準をつくるための考え方をご紹介します。納得感のある決断をするために、このフレームワークをぜひ試してみてください。
転職成功のための「基準」の考え方
転職活動を始めるにあたり準備は欠かせませんが、最も大切なのは、「転職によって何を改善・実現したいのかを考える」ということです。考える順序は下記のとおりです。
- 転職で実現したいことを6つの軸に分解し、希望・最低ラインを考える
- ①の軸に優先順位をつける
- 作った基準と「転職理由」に整合性があるか確認する
- 検討したい企業が出てきたとき、優先順位の高い軸から企業との相性を分析・判断する
手順① 6つの軸の希望・最低ラインを考える
転職を希望する方が転職によって改善・実現したいことは、次の6つに大別できます。これらを「6つの軸」と呼び、それぞれについて希望の内容と最低ラインを具体的に考えていきましょう。
- 待遇軸
- 業界・会社軸
- 仕事内容・キャリア構築軸
- 勤務地軸
- 労務環境軸
- 職場環境軸
① 待遇軸について
まずは待遇について考えてみましょう。具体的には、最低限必要な年収と希望の年収を大まかに算出します。それに加えて、結婚や出産といったライフステージの変化や子どもの成長など家庭の状況によって必要な金額は変化するため、〇年後に必要な年収はいくらになっているかも計算してください。
待遇軸は、「なぜその金額が必要なのか」を考えることになるため、今後の人生設計を検討するよい機会にもなります。現在の家庭のキャッシュフローを見直すことで、必要な金額を具体的に把握することができます。
ここで注意しておきたいのは、初年度の賞与金額は入社時期により変動するということです。その点を考慮して、必要な金額から最低限必要な年収と希望の年収を考えるとよいでしょう。
② 業界・会社軸について
業界・会社軸は、下記について考えてみましょう。さまざまな業界を研究することで、意外な選択肢が見えてくることもあります。これまでの経験にとらわれず、少しでも興味のある業界は詳しく調べてみてください。
- 希望の業界
- 希望する企業規模、企業の成長段階(創業期、成長期(拡大期)、成熟期(安定期)など)
- 「なぜそれを希望するのか」という理由
③ 仕事内容・キャリア構築軸について
仕事内容・キャリア構築軸は、WILL・CAN・CANNOTの視点で考えます。
- CAN - 経験があること、得意なこと
- WILL - 挑戦したいこと、今はできないが将来的に習得したいこと
- CANNOT - できないこと、苦手なこと
考える際のポイントとして、できる限りCAN(経験があること、得意なこと)との一貫性を重視しましょう。一般的に30代以降でまったくの未経験職種に転職することは難しく、仮に転職できたとしても待遇が大幅に下がる傾向があります。経験があり、かつ得意な仕事を転職先として選択することが転職成功の王道と言えるでしょう。
ただしポータブルスキル (※1)と称される、論理的思考力、コミュニケーション能力、交渉力、問題解決能力などは、特定の職種にとらわれることのない汎用的なスキルです。これまでに磨いてきたポータブルスキルの棚卸も行うことで仕事の選択肢を広げることができます。
(※1 参考:一般社団法人 人材サービス産業協議会 ポータブルスキルセルフチェックツール)
そして今後のキャリアを考えたときに、WILL(やってみたいこと、身に着けたいこと)、あるいはCANNOT(できないこと、苦手なこと)がある場合は、そのスキルや経験はどれくらいの期間で習得できるかリサーチしましょう。ここでは楽観的にならず、できる限り現実的に自分を見つめ、確実に習得できるか判断することが重要です。あわせて「〇年後にどんな仕事をしていたいか」も考えることで、キャリア構築のプランを再検討するとよいでしょう。
④ 勤務地軸について
勤務地は考えやすい条件ではありますが、「希望勤務地」と「ここまでなら通えるというエリア」を具体的にイメージしておくと選択肢が広がります。とくにUターンやIターンなど都会から地方へ転職する場合は、転職先の地域における通勤事情を調べておくとよいでしょう。地元で暮らしている知人や、地域に特化した転職エージェントに相談することも有効です。
ここ2年ほどでリモートワークの普及が進み、リモート勤務OKという求人も増加しましたが、実際にフルリモートで働いているのはITエンジニアなど特定の職種に限られている印象です。「週〇日は出社必須」「研修期間中は出社」という企業も多いため、無理なく通える範囲を明確にしてください。また、将来的に転勤してもいいという場合は、「〇年後に」「どこなら」検討可能かも考えてみましょう。
⑤ 労務環境軸について
労務環境軸は下記2点についてそれぞれ検討します。
休日について
- 土日休みは必須か、土曜は隔週休みでも検討可能か
- 平日休みでも検討可能か、休日にこだわりはあるか
労働時間について
- 対応可能な就業時間は何時から何時までか
- 対応可能な残業時間はどれくらいか
- 他の条件が良い場合、どこまで許容できるか(=最低ライン)
労務環境を検討する際はフレックスタイム制を考慮するとよいでしょう。2019年4月の法改正以降、コロナ禍を経て、フレックスタイム制を導入する企業が増加しています。コアタイムの有無、フレキシブルタイムの時間帯などは企業によって異なるため、自分が勤務できる時間を整理してみてください。
⑥ 職場環境軸について
職場環境軸では、自分がどんな社風や企業文化の中で働きたいのかを具体的にイメージしてください。
理念、文化、風土、社長……これまでの勤務先を振り返ってみましょう。自分が心地よく感じたのはどんな組織だったのか。どんな価値観を重視する企業ならうまくやっていけそうか。人それぞれ大切にしたいポイントは異なります。箇条書きでもいいので、紙に書き出すと考えが整理されるでしょう。自分が希望する職場環境を言語化してみてください。
副業をしている場合、企業が副業を許可しているかどうかが一つのポイントになります。気をつけたいのは、「副業可」としているものの条件をつけていたり、積極的に推進はしていなかったり……という企業があることです。その場合に備えて、どのような条件なら譲歩できるか、あるいは副業を一時的にやめることは可能かを考えておきましょう。
転職先として中小企業を視野に入れている場合は、「どんな社長の下で仕事がしたいか」をイメージしておくことをおすすめします。中小企業は良くも悪くも社長がすべてです。社長の考え方・意思が、経営理念から文化、風土、各種制度に至るまで色濃く反映されます。また、中小企業は社長との距離が近いため、意思決定が早く経営に近い場所で仕事ができるというメリットがある一方、社長と考え方が合わない場合は仕事へのモチベーションを維持するのは至難の業です。このことは中小企業へ転職する際には、ぜひともおさえておきたいポイントです。
手順② 6つの軸に優先順位をつける
6つの軸が明確になったら、改善・実現したい順に並べます。ここで大切なのは、6つの軸すべてを改善・実現できる転職を望まないということです。その理由はシンプルで、選択肢として検討できる企業が増えるからです。そして、「本当に大切にしたいこと」に基づいた冷静な判断ができるようになります。
現状維持あるいは実現不可能でも構わないものは優先順位を低くしておきましょう。6つの軸の優先順位における上位の内容がある程度実現できていれば、下位の内容における不足を補って満足のいく転職が叶います。
また、転職の意思決定に重要な影響を与える存在(配偶者等)がいる場合は、この時点で6つの軸の内容と優先順位について合意を得るとよいでしょう。もし合意を得られない軸があれば話し合い、お互いに納得できるポイントを見つけてください。
まだ転職先も明確になっていない段階で話し合うのは骨の折れることかもしれませんが、ここでお互いの価値観をしっかり理解しておくことが大切です。いざ転職活動を始めた際に理解を得られやすくなり、結果としてよい判断ができるようになります。
手順③ 6つの軸の優先順位と転職理由に整合性があるか確認する
6つの軸に優先順位をつけたら、転職を検討している理由と照らし合わせて、整合性があるかチェックしてください。
例えば、転職を検討している理由が労務環境の改善であれば、労務環境軸の優先順位は上位になるでしょう。一方で、「年収に不満はない、現状維持または〇万円程度なら下がっても問題なく生活できる」と考えているのであれば、年収軸の優先順位は下位になるはずです。
「ワークライフバランスを整えたくて転職を考えたのに、なぜか年収軸が1位になっている」といった場合は、手順②に戻って優先順位を見直すことをおすすめします。
手順④ 優先順位の高い軸から、企業との相性を分析・判断する
転職における優先順位と6つの軸の最低ラインが決まったら、実際の応募検討企業に対して6つの軸を確認し(あるいは予想し)、可能性のある企業にアプローチしていくという流れになります。
応募を検討したい企業と照らし合わせ、6つの軸それぞれに「〇」「△」「×」をつけていきます。そして下記2点をチェックしてください。
- 6軸すべてにおいて「×」は無いか
- 優先順位1位・2位の軸が「〇」であるか
優先順位の上位の軸が〇、かつすべての軸に×がなければ検討可とすることで、「優先順位が低い軸には目をつぶろう」という判断ができます。
上記2点を満たす企業を見つけることができない場合は、設定した6つの軸の最低ラインが高すぎる可能性があります。その際は求人情報を参考にしながら最低ラインを調整しましょう。一気に変えようとせず、少しずつ調整することで、最小限の妥協で検討範囲を拡げることができます。また、どうしても最低ラインを変えられない、妥協できない……という場合は、「いまは転職をしない」という決断に至るかもしれません。
ここで判断したことの裏付けをとるために、企業との面接の場で、優先順位が高い軸が本当に〇か、すべての軸に×はないか、確認することも大切です。ぜひ逆質問の時間を利用して情報収集してください。
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6つの軸を明確にして転職を成功させよう
転職における判断の軸を明確にすることは、簡単そうに思えますが意外と難しく、重要であることがお分かりいただけたと思います。
このフレームワークは、転職活動を開始するときはもちろんのこと、活動が行き詰った場合にも有効です。ぜひ「6つの軸」の考え方を試してみてください。
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