「ホワイトすぎる職場」とは?なぜ若手社員は退職してしまうのか

「ブラック企業は嫌だ」。これは多くの人が思っていることです。しかし、最近は「ホワイトすぎる職場」で若手社員が退職するケースが増えているというのです。その理由は「職場がゆるすぎる」こと。

「ホワイトすぎる職場」とは何か?「職場がゆるすぎる」と何が問題なのか?キャリアコンサルタントの立場から解説していきたいと思います。転職活動をしている人はもちろん、そうでない人も、自分に照らし合わせてみると新たな発見があるかもしれません。

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「ホワイトすぎる職場」とは何か

まずは「ホワイトすぎる職場」とはどういうことか。現在起きている企業と社員の意識の変化をみながら考えていきたいと思います。

職場環境は大幅に向上している

近年、コンプライアンス意識が低い・社員に過度な残業やノルマを課すというような、いわゆるブラック企業への対策として、働き方改革関連法案(2019年)、パワハラ防止法(2020年)といった法整備が進みました。企業はそれらの法律に対応する必要に迫られたことで、職場環境の向上に努め、実際に大きな成果を上げてきました。

リクルートワークス研究所の「大手企業の新入社会人の就労状況定量調査」(2021)によると、「一度も叱責されたことがない」割合は、1999-2004年卒が9.6%だったのに対し、2019-2021年卒では25.2%に増えています。

また「週残業時間」は1999-2004年卒が9.6時間だったのに対し、2019-2021年卒では4.4時間に減少しています。

その他にも1999-2004年卒に比べて2019-2021年卒は「休みがとりやすい」「失敗が許される」といったポジティブな回答の割合が増加しています。

その結果として、「職場への評価」(10点満点)が6点以上の割合を見ると、1999-2004年卒が33.7%だったのに対し、2019-2021年卒では48.6%となり、職場環境は大幅に向上していることが分かります。

職場環境は向上しているが、「不安」が増している

ここまで見ていくと、職場環境が向上し良いことばかりのように思えます。しかしストレス実感は減少しておらず、なかでも「不安だ」とする回答は、1999-2004年卒が66.6%だったのに対し、2019-2021年卒は75.8%に増加しています。その不安の中身は、下記の通りです。

  • 「このまま所属する会社の仕事をしていても成長できないと感じる」35.0%
  • 「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」48.9%
  • 「学生時代の友人・知人と比べて、差をつけられているように感じる」38.6%

この調査結果から分かるのは、若手社員は、職場環境が向上したことは良いことだと感じている一方で、成長できない、他で通用しない、差をつけられている、というキャリアに関する不安が増しているということです。

「ホワイトすぎる職場」では企業と社員ですれ違いが起きている

企業としては法令順守を意識して、パワハラと言われないように、叱って辞めてしまわないようにと、残業させず、叱らず、良かれと思って若手社員に接してきたつもりが、いつのまにか「ゆるすぎる職場」が出来上がってしまった実態が見えてきます。そして若手社員はその「ゆるすぎる職場」で成長機会が得られず、不安を募らせているようです。

このように過度に配慮した結果、社員から成長機会を奪っている職場を「ホワイトすぎる職場」と考えてよいでしょう。

調査結果の留意点
リクルートワークス研究所の「大手企業の新入社会人の就労状況定量調査」(2021)は、大学・大学院卒の正社員で従業員数1000人以上の会社に勤める人をアンケート対象にしています。つまり、大学受験を経て進学し、就職活動でも大企業からの内定を得た人たちです。
ここから推測されるのは、回答者に比較的キャリア志向が強い人たちが多いということです。このように一部のセグメントに絞ったアンケートであるため、この調査結果が世相を反映しているとまでは言えないことには留意が必要です。世の中全体でいえば「自分はそこまでキャリアについて考えたことはない」「ホワイトすぎる職場はむしろ羨ましい」と考える人の方が多いのかもしれません。

「ホワイトすぎる職場」の何が問題か

これまで「ホワイトすぎる職場」とは何かを見てきましたが、実際、「ホワイトすぎる職場」ではどのような問題が起きるのでしょうか。

「ホワイトすぎる職場」の会社で起こる問題とは

「ホワイトすぎる職場」では、若手社員が不安を募らせた結果、危機感を抱き、退職してしまうケースがあります。

「ホワイトすぎ 若手が離職」日本経済新聞(2022年12月15日)にも、大手金融機関に入社して1年目の男性が「先輩は残業しているのに、1年目だから無理せず帰るよう声をかけられていた」「このままでは他で通用しなくなる」という理由から転職を決めたという記事が掲載されていました。また退職に至らない場合でも、若手社員が成長機会を得られないことは、企業の将来を担う社員育成の観点から問題と言えるでしょう。

企業側からすれば、成長志向を持った社員は歓迎し、優秀な社員とみなすことが多いはずです。しかし「ホワイトすぎる職場」によって、優秀な社員ほど退職を考え、一方で成長志向のない社員が残るという事態となってしまいます。

「ホワイトすぎる職場」で働く社員に起こる問題とは

「ホワイトすぎる職場」は、負荷が少なく職場環境は良い一方で、仕事を通じて成長を感じたい人にとっては、満足できるものではないでしょう。また、特に若手社員の場合は、定年を迎えるまで40年以上残っており、その間、平穏無事に乗り切れるとも限りません。

今は良い会社でも業績悪化によるリストラや経営破綻が起こり得ますし、部署や上司が変われば環境が一変する可能性もあります。また個人としても様々なライフイベントで会社を辞めざるを得ないときがくるかもしれません。いざ転職というとき、新卒時代から何も成長していない状態では、選択肢が狭まってしまうことは大きな問題です。

「ホワイトすぎる職場」にならないためにはどうすべきか

それでは、「ホワイトすぎる職場」にならないためには、今後どうしていけば良いでしょうか。

「働き方改革」の趣旨をあらためて見てみよう

「ホワイトすぎる職場」になってしまった企業は、働き方改革についていま一度、趣旨から考えてみると良いと思います。厚生労働省のホームページには、「働き方改革」が目指すものとして、以下の記載があります。

当たり前ですが、「ゆるくしろ」などとは一言も書いていません。むしろ「意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ること」とあります。この点では若手社員が成長機会を得られていない「ホワイトすぎる職場」は、法律に反してはいませんが、法律の趣旨は満たしていないと言えるでしょう。

また「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること」という記載もあります。つまり、一律に「残業をなくす」という0か100かではなく、「個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる」ようにすることが本来の趣旨です。

一人ひとりの社員と向き合うことが大切

このように個々の事情や価値観が異なりますので、これまで以上に社員一人ひとりと向き合うことが企業に求められます。少なくとも管理職以上は、定期的に部下と1on1の機会を設けるなどして、お互いに本音を言い合える信頼関係を作ることが大切です。

そのうえで、成長機会を欲している若手社員にはしっかりとチャンスを与え、様々な事情でいまは仕事をセーブしたい社員には労働時間を減らせる制度を設ける、というように、社員が「多様な働き方を選択できる」ことが重要と言えるでしょう。

なお、これまで「厳しくしないと部下が育たない」と考えてきた管理職は、叱責や命令に頼らない正しい人の育て方、成長支援の方法も身につけていく必要があります。パワハラや退職を恐れて腫れ物に触るように若手社員に接するのではなく、指導する側のスキル向上に努めましょう。

「ホワイトすぎる職場」の社員はどうすべきか

次に「ホワイトすぎる職場」に勤めていて、成長機会が得られないと不安を感じている社員は、これからどうすれば良いでしょうか。

自分から会社に「成長の意志」を伝える

もし「ホワイトすぎる職場」で成長機会が得られないことに不安を感じているのであれば、それを率直に伝えてみましょう。

「ホワイトすぎる職場」の場合、良かれと思って、「ゆるすぎる職場」を作ってしまっている可能性が高いです。過度に配慮しすぎているということが前提にありますから、社員本人から直訴すれば、成長したいという気持ちにも(逆に)配慮してくれるかもしれません。

転職、副業・兼業、自己学習などやれることは多い

直訴しても会社が変わらないのであれば、成長機会を今の会社に求めることは諦めた方が良いかもしれません。会社が機会を与えてくれないのであれば、自分で機会を作ることを考えましょう。

まず最も実行に移しやすいこととして、自己学習があります。自分で資格の勉強をする、本を読んで知識を蓄える、社外のコミュニティに参加する、社会人向け大学院に通うなど、職場での負担が少ない分、自己学習に使える時間は十分にあるはずです。

また会社が許せば、副業・兼業によって、成長機会を得ることもできます。ただし、まだ何もスキルが身についていない段階では、副業・兼業で雇用してくれる会社は少ないでしょう。

もし本気で現状を変えたいと思う気持ちが強いのであれば、早い段階で転職を真剣に考えた方が良いと思います。人は良くも悪くも、環境に依存します。いまの「ホワイトすぎる職場」に慣れてしまい、将来何かあったときに後悔するくらいであれば、危機感を持っている今のうちに転職しておく方が良いでしょう。

転職活動で要チェック!「ホワイトすぎる職場」の見極めポイント

転職活動をする際に、「ホワイトすぎる職場」を避けたい場合、どのように見極めるべきでしょうか。「ホワイトすぎる職場」にありがちな共通項をお伝えします。

変化がない会社

得意先も仕入先も変わらず、毎期安定した売上・利益を上げている変化のない会社の場合、仕事がルーチンになってしまう傾向があります。そのような職場では、社員に「前任者がやっていた通りに仕事を覚える」ことが求められ、結果として仕事に負荷がかからず成長の機会を失ってしまうことが多いです。

業績が伸びていない会社

会社の業績が伸びていない場合、そこに属する社員にとって成長の機会が得られないことが多いです。会社が伸びていれば、新しい拠点や部署をつくる、組織を分ける、といった必要があり、社員にとっては新しいポストに就ける機会が得られるものです。しかし、会社の成長がなければ、上司の定年退職や欠員といった事情がない限り、若手社員に機会は回ってきません。

残業時間がほぼゼロの会社

会社として事業運営をしている限り、年間を通して業務量が一定ということはなく、時期に応じて繁忙期・閑散期があったり、突発的な顧客の要望に応じて追加業務が発生したりということがあり得ます。そのため、年間通じてまったく残業がないということは、通常時は仕事に余裕があるということで、負荷がかかっていないということです。

年間通して残業ありきの会社は問題ですが、逆にまったく残業がない会社も人によっては物足りなさを感じるでしょう。

まとめ

ブラック企業が問題になっていたと思えば、いまは「ホワイトすぎる職場」が問題になる時代になりました。「ホワイトすぎる職場」は一見良い職場とも思えますし、実際に若手社員の「職場への評価」も上がっています。しかし成長機会を求める若手社員にとっては、決して満足できる環境とは言えません。企業と社員で、すれ違いが起きないように、多様な働き方を選択できる社会になると良いなと思っています。

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