転職先から内定を得て入社する意思が固まったら、さっそく退職交渉を始めましょう。「立つ鳥跡を濁さず」という言葉もあるように、退職交渉はスムーズに進めたいものです。しかし、最近では予想外のトラブルに発展してしまうケースも散見されます。トラブルを未然に防止するためには、事前に正しい退職交渉の進め方をマスターしておくことが大切です。とはいっても、重要ポイントを押さえておけば、それほど難しいものではありません。
【退職交渉パーフェクトガイド】では、正しい退職交渉の進め方について、STEPに沿って押さえるべきポイントを解説していきます。これを読んで円満退職を目指しましょう。記事後半のQ&Aは、実際によく質問を受ける事項をまとめていますので、あなたにあてはまるものがあるかもしれません。
この記事を監修したコンサルタント
リージョンズ北海道コンサルタント。2009年入社以来、北海道エリアを中心にキャリアコンサルティングに従事。国家検定2級キャリアコンサルティング技能士、リージョナルスタイル認定チーフコンサルタント。
退職交渉STEP⓪就業規則の確認
まず退職交渉の前段階、できれば転職活動を開始するタイミングで、現職企業の就業規則はしっかりと確認しておきましょう。退職交渉でとくに重要な部分は、退職に関する事項です。民法上では2週間前に退職の申し出をすればよいことになっていますが、一般的には就業規則で1ヶ月前に申し出をすることを明記している会社が多いです。転職活動中に面接でも「いつから就業できますか(いつ入社できますか)」という質問を受けることもありますので、事前に確認しておく方が無難でしょう。
民法627条1項「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」
退職交渉STEP①入社日の合意
退職交渉に入る前に、必ず転職先企業と入社日を合意しておきましょう。転職先は「できるだけ早い入社」を求めることが一般的で、どうしても後ろ倒しできないケースも想定されます。事前に転職先と入社日の合意をとり、そこから逆算して退職日を決めることが大切です。
入社日が遅くなったことで内定取消になることも
転職先にとって、入社時期も選考の合否を決めるポイントの一つになり得ます。事前に合意した入社予定日に入社できない場合、最悪のパターンでは、内定取り消しという事態も想定されます。そのため、入社予定日は絶対なのか、相談可能なのか、相談可能なのだとしたら猶予はいつまでか、を明確に確認しておくべきです。「『少しくらい』遅れても大丈夫です」などと曖昧にしないことが大切です。
最も避けるべきは、退職交渉が思うようにいかず、入社日が遅れることが確定した時点で転職先に相談することです。退職交渉開始後に内定取り消しという事態にはならないように注意しましょう。
離職期間ができると社会保険の切り替えが必要なことも
退職から入社までに離職期間ができてしまうと、国民年金の切り替え手続きや、国民健康保険への加入の手続きを自分で行わなければなりません。離職期間がない場合は、転職先の会社が切り替え手続きを行います。ここでポイントになるのは、月末時点で在籍しているかどうかです。離職状態で月末を迎えてしまう場合は注意しましょう。
転職先の入社日のルールも確認する(毎月1日のみという場合も)
会社によっては、入社日は毎月特定の日のみということもあります。例えば毎月1日に入社式をするので、月中での入社は不可という場合です。ほかにも、給与計算を煩雑化させないために、毎月1日もしくは給与締め日の翌日(例えば16日、21日など)に入社日してほしいということもあります。
転居が必要な場合はスケジュールも綿密に
Uターンなど転居を伴う転職の場合は、住まいの退去や入居、引っ越しといったスケジュールにも気をつけましょう。これを考慮せずに入社日を決めてしまうと、入社後しばらくの間は実家やホテル暮らし、元の住まいと何往復もする羽目になってしまうこともあり得ます。
退職交渉STEP②退職交渉の開始
転職先への入社日から逆算して現職企業の退職日を決めたら、さっそく退職交渉を進めましょう。言い出しにくかったり、繁忙期だからと後回しにしたりということは、結果的に現職企業に対して不誠実な対応となってしまいます。現職企業としては、社員が退職するということは、外部採用、社内異動、業務担当変更、顧客や業務の引き継ぎなどの必要性に迫られます。そのためにもできる限り早く退職の旨を伝えることが大切です。
転職(退職)の意思が決まったら、すぐに退職交渉を
転職(退職)の意思が決まったら、その翌朝には直属の上司に「10分だけ時間をください」等と伝えて時間を設けてもらいましょう。最近は出社せずにリモートで仕事をしている人も多くなっています。必ずしも顔を合わせて伝えることにこだわる必要はありません。対面が難しければ、オンラインや電話であっても、早く退職の旨を伝え、退職交渉をスタートさせることが現職企業のためです。
退職理由で「会社への批判・不満」はNG
もう退職する会社だからと、批判をしたり不満をぶつけたりすることは避けましょう。自社のことを悪く言われた相手が感情的になることも考えられます。感情的になってしまうと退職交渉のトラブルに繋がりやすくなります。お互いに冷静に進められるように努めるべきです。
また会社への批判や不満は、相手にとって絶好の引き留めの材料を与えてしまうことにもなります。相手に「それが解消されれば会社に残る可能性がある」というメッセージを与えないよう、批判や不満はグッと押し殺しておくことが無難でしょう。
「交渉」ではなく「報告」のスタンスで、退職意思を伝える
一般的に退職「交渉」と言われることが多いですが、退職「報告」という心構えを持ちましょう。法律上は、労働者側からの一方的な退職の申入れによって退職は可能であり、現職企業の合意が求められるものではありません。「交渉」をするというスタンスではなく、自分の退職意思を伝える「報告」という気持ちで臨みましょう。「退職を考えています」というような言葉では、上司は「相談をされている」と捉えてしまうかもしれません。「○月○日付で退職します」と明確に自分の意思を伝えることが退職交渉において大切です。
確かに伝えたという「履歴」を残す
口頭だけで伝えた場合、履歴がなく記憶のみに頼ってしまうことになります。現職企業から「聞いてない」と言われてしまうと、それ以上の反論が難しくなってしまいます。そのため、口頭で伝えるとともに、できれば「退職願」を提出するか、少なくとも履歴を残すことを心掛けましょう。退職届は会社によって提出するタイミングもありますから、口頭での報告後に、あらためてメールも送っておくと安心です。その際、最低限、以下の3点は明記しておくようにしてください。
- 退職する旨
- 退職を申し出た日
- 退職日
感謝の気持ちを伝える
これまで「報告」「履歴」とドライで事務的な印象を持たれてしまったかもしれませんが、しっかりと感謝の気持ちを伝えることも大切です。何らかの事情や思いがあって退職することになったものの、最後は感謝の気持ちを持ちたいものです。ビジネスパーソンは人的ネットワークも非常に大切な要素であり、退職後も何らかのつながりを持ち続けるケースも多くあります。残された時間で引き継ぎも責任をもって行う旨を伝えて、退職後も関係性を維持できるように努めましょう。
伝えただけで終わらない
退職交渉は直属の上司に報告した後、人事部や社長・役員といった上層部へと手続が進んでいくことが一般的です。直属の上司に報告してそれで終わりと思わずに、手続の進捗状況は自分から確認していく姿勢を持つようにしましょう。
退職交渉STEP③引き継ぎの開始
退職までの期間はこれまで以上に頑張るという気持ちで仕事にあたりましょう。素晴らしいビジネスパーソンほど、「立つ鳥跡を濁さず」の姿勢をもっているものです。もう退職するからと引継ぎに手を抜いてはいけません。
引き継ぎは絶対に手を抜かない
自分が会社を去った後、「○○さんは引き継ぎをしっかりとやってくれた」と言われるくらいに、最後まで手を抜かずに引き継ぎをやり遂げましょう。これまでの仕事以上に力を入れて引き継ぎを行うくらいの気持ちがあれば、それが現職企業にも必ず伝わるものです。
できれば文書を作成して引き継ぐ
引き継ぎというと、後任者とマンツーマンで行うイメージがあるかも知れませんが、必ずしもそれだけではありません。できれば、引き継ぎ事項を「文書」として残すようにしましょう。その業務分野についての最低限の知識がある人であれば、その文書を読めば問題なく職務遂行できるものが理想です。
退職交渉STEP④退職日を迎える
引き継ぎも終わり、無事に退職日を迎えられたのであれば、あらためてこれまでの感謝の気持ちを伝えると良いでしょう。有給休暇が残っている場合や退職日が休日の場合は、退職日≠最終出社日となることもあります。最終出社日までに、きちんと挨拶を済ませるようにしましょう。
お世話になった人たちへの挨拶をする
退職する前に社内外のお世話になった人たちへ挨拶をしておくことをお勧めします。そのとき、必ず事前に上司へ「退職の挨拶をして良いか」の確認をしましょう。退職は会社にとっては人事であり、人事が発表される前に他者に情報を漏らしてしまえばトラブルに発展する可能性があります。
身のまわりは綺麗に片づけ、私物は残さないように
自分のデスクをきれいにして、私物はきちんと自宅に持ち帰り、会社に残さないようにしましょう。また、会社から貸与されているものは返却する必要があります。PCやスマホ、カードキーはもちろん、ペンやファイルといった小物であっても、勝手に持ち帰ることのないようにしましょう。
退職交渉Q&A
ここでは、退職交渉に関して皆さんが疑問に思うであろうことをQ&A形式でお答えしていきます。
Q1:言い出すタイミングが掴めない場合はどうするべきか
Q2:退職は誰に伝えるべきか
Q3:退職はメールで伝えてもよいか
Q4:上司が聞く耳をもってくれない場合はどうするべきか
Q5:「後任が採用できないから」と引き留めにあった場合はどうするべきか
Q6:「昇給・昇格をさせるから」と引き留めにあった場合はどうするべきか
Q7:「地元に異動させる/リモートワークを許可するから」と引き留めにあった場合はどうするべきか
Q8:引き留めを受けて気持ちが揺らいだ場合はどうするべきか
Q9:転職先を聞かれた場合は答えるべきか
Q10:「退職願」と「退職届」は、いつ提出すべきか
Q11:競業避止の誓約書にサインを求められた場合はどうするべきか
Q12:有給休暇をすべて使い切ってもよいか
Q13:賞与を受け取った後に退職交渉を始めても問題ないか
Q14:「円満退職」できないと、どのようなデメリットがあるか
Q15:「退職代行サービス」は利用してもよいか
Q16:退職交渉が上手くいかない場合はどのように対処すべきか
Q17:退職時にもらうべき書類は何があるか
①地元へ異動するということは、将来はまた別の地域への異動も当然あり得えます。就業規則によりますが、将来の異動を回避するためには地域限定職といった転勤がない雇用契約に変更する必要性も考慮しておきましょう。その場合は年収が下がる、将来のキャリアが限定される、という可能性があります。
②リモートワークは昨今導入する企業が増えていますが、それを就業規則に明記している会社はまだそれほど多くありません。状況に応じて柔軟に変更できる余地を持たせている会社が多数です。そのため、リモートワークが認められなくなった場合には、すでに転居した地元に残るためには退職せざるを得ないということも考えられます。
(A) 雇用保険被保険者証
雇用保険の加入者であることを証明するもので、一般的には会社で保管されています。転職先への入社時に提出する必要がありますので必ずもらっておきましょう。
(B) 年金手帳
20歳以上の方に一人一冊交付されているもので、個人が手元で管理している場合と、会社で保管している場合があります。手元にない場合には、必ず会社から受け取りましょう。
(C) 源泉徴収票
年の途中で転職した場合には、転職先で年末調整をしてもらう必要があります(個人で確定申告をする場合を除く)。転職先に提出する必要がありますので、必ずもらっておきましょう。
(D) 離職票(雇用保険被保険者離職票)
ハローワークで失業保険を申請する際に必要となる書類です。離職票(雇用保険被保険者離職票)は、退職後でないと発行してもらえませんので、一般的には郵送で自宅に届けられることが多いです。退職時点ですでに転職先が決まっている場合は不要ですが、まだ決まっていない場合には必ず受け取りましょう。
退職交渉の進め方を理解し円満退職を目指そう
退職交渉に不安はつきものです。しかし、事前に正しい退職交渉の進め方をマスターしておけば不安は最小限に抑えられます。また、転職活動の最終STEPである退職交渉をスムーズに終わらせることが、転職先で輝かしいキャリアを築いていくことの第一歩となります。皆さんが自らの意思で退職を決意し、新たなキャリアを目指された決断を心から応援しています。
転職活動って、何から始めればよいのでしょう?どういったステップがあって、どのような準備が必要なのでしょうか? ここでは、転職活動のはじまりからおわりまで、4つのステップに分けて説明していきます。納得のいく転職を実現するため、計画的に[…]
転職活動が順調に進み、希望する企業から内定が得られたら、最後は意思決定(内定承諾)が求められます。 私はこれまで多くの人の転職支援をしてきましたが、そのなかで、迷いなく意思決定ができる人とそうでない人がいました。どちらも「第一希望の[…]