転職活動が順調に進み、希望する企業から内定が得られたら、最後は意思決定(内定承諾)が求められます。
私はこれまで多くの人の転職支援をしてきましたが、そのなかで、迷いなく意思決定ができる人とそうでない人がいました。どちらも「第一希望の企業」から内定が得られているのに、一方は「入社します」とすぐに決め、一方は「時間をください」と決め切れないのです。この違いはどこからくるのでしょうか。
今回は、転職活動の意思決定フェーズを「判断」と「決断」という2つのプロセスに分けて、その違いを解説します。
この記事を監修したコンサルタント
立命館大学卒業後、日立製作所グループのメーカーに入社し人事・労務に従事。2014年に日本キャリア開発協会認定CDA(career development adviser)を取得。同年、妻の地元北海道・札幌へUターン。リージョンズに入社し、コンサルティング業務に従事している。
意思決定には「判断」と「決断」のプロセスがある
人は意思決定を迫られたとき、2つのプロセスを辿ります。それは「判断」と「決断」です。
- 「判断」とは・・・ある事柄について、考えをまとめて定めること。
- 「決断」とは・・・意志をはっきりと決定すること。
一見すると同じような意味合いを持つ言葉ですが、この2つは大きく異なります。そしてこの順番も大切です。「判断」をしてから「決断」をしなければなりません。では転職活動の意思決定フェーズに当てはめて、具体的にお伝えしていきます。
「判断」のプロセスとは
「判断」は、様々な要素を掛け合わせ、最低限の条件が満たされているかを確認することです。これは非常に重要なプロセスで、「不要なもの(選んではいけないもの)を選択肢から排除する」目的で用います。
例えば、どれだけやりたいことでも、「収入が少なく生活ができない」のであれば、転職しても幸せにはなれません。それ以外にも、良い悪いではなく、人それぞれの価値観に照らして、絶対に外せない条件があるはずです。
(例)
- 勤務地は関東圏内で転勤は絶対にしたくない。関東勤務で転勤なしで働きたい。
- 世間体が気になるので、中小企業は絶対に避けたい。大企業で働きたい。
- 成長志向がない経営者のもとでは働けない。成長意欲溢れる経営者のもとで働きたい。
人によって最低限の条件はさまざまですが、以下の6つの項目に分解して考えれば、大きな漏れはないでしょう。
- 仕事内容
- 会社(業績・規模・成長性)
- 勤務地(転勤有無含む)
- 年収(現在及び将来)
- 労務環境(残業・休日)
- 職場環境(働く仲間、社風)
転職は人生の転機だからこそ、「あれも・これも」と多くを求めたくなるものです。しかし明確な基準を持っていなければ本来の目的を叶えることができず、転職後に「こんなはずではなかった」と後悔するかもしれません。そこで、自分なりの判断基準をつくるた[…]
なお、「これは絶対に必要だ」と思うことでも、場合によっては思い込みということもあり得ます。思い込みをなくすには、自分自身に次のような問いをすることも有用です。
- なぜそれが必要なのか?仮にそれが満たされなかったらどうなるか?
- 目先だけの判断になっていないか。中長期的なキャリアプラン・ライフプランに合致しているか?
「決断」プロセスとは
上記が「判断」プロセスです。そのうえで、残った選択肢(必要最低限の項目を満たしている選択肢)のなかで、どれを選ぶかは「判断」ではなく「決断」です。
しっかりと検討したうえで、「判断」のプロセスを経た選択肢であれば、どれを選んでも、大失敗するということはないでしょう。そのうえで、次のプロセス「決断」に移ります。「決断」は直観にも近いもので、自分の感情が最も揺さぶられる会社を選ぶことをお勧めします。「どこを選んでも大失敗はない」と自分に言い聞かせ、直観で決めるのです。
このとき正解を求めないことが重要です。
複数の選択肢がある場合、どうしても最適なものはどれかという正解を求めたくなってしまいます。しかし正解は一つではないかもしれませんし、人生を巻き戻すことはできませんので、あとから検証することもできません。
どれだけ必死に考えても正解は見つからないのです。
- どの選択肢を選んだとしても、後悔する可能性はある。
- 入社する前に会社のことを100%知ることなど不可能。
- 入社してから会社が(方針・制度など)変わってしまうことがある。
- 数年後に自分のライフステージが変わり、いまと価値観が変わる可能性がある。
これらのことを念頭に置いて、正解がないなかで決めることが「決断」なのです。
内定後も企業からジャッジされている
企業は内定を出したあとも、あなたをジャッジしています。それはあなたが「決断できる人」かどうか、というジャッジです。
もちろん企業は、一度出した内定を取り消すことはできません。しかし「決断ができる人」かどうかで、企業からの期待値は大きく変わります。
企業は、重要な意思決定が求められるポジションに「決められない人」は配置しません。正解か不正解かは別として、「決断できる」ことがビジネスパーソンにとって重要なことなのです。
転職と結婚は似ている!?
この流れは、よく結婚と似ているとも言われています。最低限、結婚相手に求める要素はロジカルに「判断」することもあるかもしれません。しかし、最後に判を押すときに求められるのは「決断」です。もし自分がプロポーズしたとして、相手が決断してくれず時間だけが過ぎていく……これほど寂しいことはありません。
「第一希望の企業」からの内定に、即決できないのはなぜか?
第二希望や第三希望の企業からの内定であれば、即決せずに留保するのは理にかなっています。しかし第一希望の企業から内定が得られたのに、即決できないのはなぜでしょうか。
これまで解説してきた「判断」と「決断」の2つのプロセスのいずれかに原因があるはずです。
私の経験上、圧倒的に多いのは「決断」に起因するケースです。絶対に見つからない正解を追い求め、他にもっと良い企業があるのではないかと期待し、意思決定を先延ばしにしてしまうのです。
人生においては意思決定しなければならない場面が何度も訪れます。そのときに先送りにするのではなく、「決断」するという癖をつけておけば、転職においても良い意思決定ができるはずです。
まとめ
転職活動の意思決定の場面では、誰しもが悩むものです。しかし今回解説した「判断」と「決断」というプロセスをしっかりと踏めば、きっと良い意思決定ができるはずです。
「転職する」という決断もあれば、「転職しない(現職に残る)」という決断もあるでしょう。いずれの選択をするにせよ、意思決定できるのはあなたしかいません。皆さんにとって良い意思決定ができることを心から願っています。