賃金は生活の基盤になるものです。賃金の計算方法や支払われる時期、どのような手当が付くのかなど、雇用契約を結ぶ前には必ず確認しておきたいポイントがたくさんあります。労働条件通知書には、こうした賃金に関する規定が明記されていますので、事前に確認して不安を払拭しておくことが大切です。
この記事では、労働条件通知書に記載されている「賃金」の項目について、フォーマットや記載例を参考にしながらポイントを解説していきます。
労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、企業が労働者と雇用契約を結ぶ際に明示すべき項目を記載した書類のことを指します。詳しくはこちらの記事で紹介しています。
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労働条件通知書における賃金の記載内容
労働基準法において、賃金は「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」 と定義されています(労働基準法第11条)。
労働条件通知書では、賃金に関する項目は主に次のような内容が記載されています。
- 基本賃金の内容と具体的な金額
- 諸手当の具体的な内容と金額、または計算方法
- 所定時間外、休日または深夜労働に対して支払われる割増賃金率
- 賃金締切日
- 賃金支払日
- 賃金の支払い方法
また、制度の定めがある場合は、次の内容についても記載されています。
- 労使協定に基づく賃金支払い時の控除
- 昇給の時期や金額
- 賞与の時期や金額
- 退職金の時期や金額
以上の内容について、具体的な記載例を参考にしながら詳しく見ていきましょう。
(1)基本賃金
毎月の賃金の中で最も根本的な部分を占め、年齢、学歴、勤続年数、経験、能力、資格、地位、職務、業績など労働者本人の属性又は労働者の従事する職務に伴う要素によって算定される賃金で、原則として同じ賃金体系が適用される労働者に全員支給されるものをいいます。会社によって決定方法は様々です。
一方で、住宅手当、通勤手当など、労働者本人の属性又は職務に伴う要素によって算定されるとはいえない手当や、一部の労働者が一時的に従事する特殊な作業に対して支給される手当は基本賃金には該当しません。
給与体系は会社によって決められています。それによって、給与計算の仕方が変わります。
①月給制
1ヶ月単位で賃金額が決められている給与体系です。
控除方法の違いにより、一般的には以下のように分類されます。
日給月給制:欠勤・遅刻・早退した分が給与から引かれます。
手当を含めた月額給与を元に計算します。
月給日給制:欠勤・遅刻・早退した分が給与から引かれます。
手当を含めない月額給与を元に計算します。
完全月給制:欠勤・遅刻・早退した分は給与から引かれません。
決められた給与が支払われます。
②日給制
1日単位の賃金額を定め、出勤日数に応じて支払う給与体系です。
③年棒制
1年単位で賃金額が決められている給与体系です。
前年の本人の業績や能力によって決められます。
特別な取り決めがなければ、欠勤・遅刻・早退は給与から引かれます。
④時給制
1時間単位で賃金額が決められている給与体系です。
働いた時間分支払われます。
⑤出来高給
労働者の定められた成果に応じて給与が決定される給与体系です。
労働者の生活の安定性を担保するため、一定額の給与支給を保障することが定められています。
基本賃金には、「年齢給」「職能給」など名称を分割して明示されるケースがあります。この場合は、労働者のキャリアに応じて細かく算定基準を設け、これらを組み合わせることで基本賃金を決定しています。名称は企業ごとに異なりますが、大きく次の種類に分けることが可能です。
-
勤続年数や年齢を算定基準とするケース(年齢給・勤続年数給など)
- 労働者の担う役割を算定基準とするケース(役割給など)
- 従事する業務の評価や仕事能力を算定基準とするケース(成果給・職能給など)
-
従事する業務の内容や難易度を算定基準とするケース(職務給など)
(2)諸手当の額又は計算方法
基本賃金に含まれない住宅手当、家族手当、役職手当、通勤手当などは、基本賃金と分けて記載されます。手当の名称、種類、金額、支給条件等は会社により様々です。不明な点は事前に企業に確認するのが良いでしょう。
手当には、法律で定められているものと、企業が任意で定められるものがあります。
①法律で定められている手当
次の3つの手当てが労働基準法で定められています。
- 時間外手当(残業手当)……所定の労働時間を超過した際に支給するもの
- 休日手当……法定休日に業務を行った際に支給するもの
- 深夜手当……22時~翌5時の間に業務を行った際に支給するもの
②企業が任意で定められる手当
上記3つの手当以外は、就業規則に記載することで、企業が任意で定めることができます。企業ごとにそれぞれ名称や内容は異なりますが、よくある手当として次のものが挙げられます。
- 通勤手当……自宅から勤務先までの通勤交通費を支給するもの
- 出張手当……従業員が出張する際に、交通費や宿泊費とは別で支給するもの
- 住宅手当……従業員の住宅ローンなどを補填する目的で支給するもの
- 地域手当……配属された地域の物価や土地柄を考慮し支給するもの
- 役職手当……定められた役職に応じて支給されるもの
- 資格手当……定められた資格を保有している、または保有した際に支給されるもの
- 家族手当……扶養家族がいる場合に支給されるもの
- 精勤手当……欠勤がほとんどないなど、勤務状況によって支給されるもの
- 在宅手当……在宅勤務を行う際に光熱費や通信費を補填するために支給されるもの
最低賃金は、全ての賃金が対象となるわけではありません。毎月支払われる賃金から次の賃金を除いたものが対象となります。
-
臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
-
所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
-
午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
-
精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
※参照:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-12.htm
同じ「月給40万円」であっても、基本賃金が40万円の場合と、基本賃金と手当の総額が40万円の場合だと何が違うのでしょうか。たとえば、賞与額や退職金の算定基準は基本賃金を基準とするケースが多いため、基本給の割合が高い方が結果的に賞与や退職金が多く支給されることになります。
また、手当は基本賃金と比べ、企業側が廃止や減額などを検討しやすい傾向にあります。本来賃金とは「労働の対償として使用者が労働者に支払う」ものと定められています。そのため、労働と直接関わりがない「住んでいるエリア(住宅手当)」や「家族構成(家族手当)」によって手当が支給されるのは、同一労働をしていながら手当が支給されない条件にある人と比べて不公平ではないかという見方もあります。
転職先に「●●手当があるかどうか」を必須条件にする方もいますが、特定の手当の有無にこだわるよりも、賃金の総額がいくらであり、それが自分の求める生活水準に合致しているのかを検討してみてはいかがでしょうか。また、求人票に「月給●万円」と記載されている場合は、それが基本給を指すのか、基本給と手当の総額なのかを確認しておくと良いでしょう。
(3)所定時間外、休日又は深夜労働に対して支払われる割増賃金率
法律で定められている3種類の手当(時間外手当、休日手当、深夜手当)は、それぞれ割増賃金率が定められています。法律では、割増率の下限が決められており、それ以上の割増質で支払う必要があります。
法律で定められている割増率の下限
※東京労働局HP しっかりマスター割増賃金編より抜粋
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/newpage_00379.html
(4)賃金締切日、賃金支払日、賃金の支払方法
賃金の支払いに関しては、締切日・支払日・支払方法について明記をする必要があります。
賃金に関する基礎知識として、「賃金支払いの5原則」というものがあります。
労働基準法第24条では、賃金支払いに関して以下のように規定されています。
-
通貨払いの原則 ※2023年4月から「デジタル給与」解禁
- 直接払いの原則
-
全額払いの原則
- 毎月1回以上の原則
- 一定期日払いの原則
<労働基準法条文>
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
賃金支払の5原則に則り、賃金の締日・支払日は企業が任意で定めています。慣習上、締日は「月末締め、15日締め、25日締め」、支払日は「15日払い、25日払い」と定められることが多いですが、企業ごとに異なるものなので、必ず通知書で確認をするようにしましょう。
なお、締日と支払日によっては入社してから賃金の支払いまで期間が空いてしまう場合があります。例えば「4月1日入社、月末締め・翌25日支払日」の場合は、4月30日に賃金を締め、翌5月25日に支払われることとなり、入社から支払いのタイミングまで約2か月空くことになります。転職をする場合は、現職企業の支払いタイミングと、転職先企業の支払いタイミングを確認しておき、生活に影響が出ないかシミュレーションしておくことが大切です。
(5)労使協定に基づく賃金支払時の控除
労使協定に基づき、給与から控除するものが定められている場合は通知書に記載されています。給与から控除できるものは以下の通りであり、法定控除項目以外は、労使協定が締結されていなければ控除できません。
- 所得税・住民税や社会保険料の本人負担分控除など法令に別段の定めのある場合
- 労使によって賃金控除に関する協定が結ばれた場合
なお、労使協定があればどんな項目も控除しても良いというわけではなく、「購買代金、社宅、寮、その他の福利・厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明白なものについてのみ、賃金から控除できる」とされています。
(6)昇給体系
昇給に関する規定は、企業が独自に設定することができます。昇給制度が有る場合はその時期や金額について記載されます。
(7)賞与の時期や金額
賞与に関する規定は、企業が独自に設定することができます。賞与制度が有る場合はその時期や金額について記載されます。
賞与の算定基準は企業によって異なり、「基本賃金の○ヶ月分」「個人の成果比率」「一律支給」など様々です。不明な点は企業に確認するのが良いでしょう。
(8)退職金の時期や金額
退職金に関する規定は、企業が独自に設定することができます。退職金の制度が有る場合はその時期や金額について記載されます。
おわりに
ここまで、労働条件通知書の賃金についての項目を解説してきました。賃金は生活を支えるために必要不可欠なものです。労働条件通知書の内容をしっかりと確認し、不明点は事前に確認をすることで、入社後のギャップを解消するようにしましょう。
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