2022年の法改正で確定拠出年金はどう変わる?企業型DCとiDeCo(イデコ)

2022年10月の法改正により、企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入している方でも個人型確定拠出年金(iDeCo)を利用しやすくなります。企業型確定拠出年金を実施している企業にお勤めの方にとっては選択肢が広がることになります。今回は、確定拠出年金とは何か、そして法改正でどう変わるのかをご説明します。

日本の年金制度について

本題に入る前に、日本の年金制度の概要をご説明しましょう。日本の年金制度には「公的年金制度」と「私的年金制度」があり、下図のように1階、2階、3階と表されることがあります。

  • 1階=公的年金(国民年金)
  • 2階=公的年金(厚生年金・共済年金)
  • 3階=私的年金(確定給付企業年金制度(DB)、確定拠出年金制度(DC)など)

引用:厚生労働省HP

3階部分にあたる私的年金は、1階・2階の公的年金を補完する目的で作られた制度です。平均寿命が伸び、長期化していく老後においても不安なく豊かな生活を送るための制度として重要な役割を果たしています。

私的年金は「確定給付型」と「確定拠出型」の2種類に分けることができます。

① 確定給付型=確定給付企業年金制度(DB)
加入した期間などに基づいてあらかじめ給付額が定められている年金制度です。

② 確定拠出型=確定拠出年金制度(DC)
拠出した掛金額とその運用収益との合計額を基に給付額を決定する年金制度です。

今回は、この②確定拠出年金制度(DC)の法改正についてご説明します。

確定拠出型年金制度(DC)とは?

確定拠出年金制度(DC)とは、毎月一定額の掛金を拠出し、加入者自らが運用する制度です。掛金額と運用収益の結果に基づいて年金の給付額が決定されます。確定拠出年金制度には次の二つの種類があります。

(1)企業型確定拠出年金(企業型DC)
企業が導入し、従業員のために掛金を拠出する制度です。この制度を導入している企業の従業員が対象となり、掛金は原則会社が支払います。

(2) 個人型確定拠出年金(iDeCo/イデコ)
個人が任意に加入し、自ら掛金を拠出する制度です。

老後の生活資金を備えるための制度という性質上、原則60歳までは給付金を受け取ることはできません。また、掛金には上限が定められていますが、税制上次のようなメリットがあります。

  1. 掛金は全額所得控除
  2. 運用益は非課税
  3. 受け取り時に控除対象

一方で、企業型DCとiDeCoの併用には制限もあります。企業型DCの加入者がiDeCoにも加入するためには、企業側が「iDeCoの加入を認める」という規約を定める必要があります。仮に定めがなく、企業側の掛金が拠出可能な上限よりも低く設定されている方にとっては、掛金の上限に十分な残余があるにもかかわらず、iDeCoでそれを活用することができませんでした。

法改正で確定拠出年金はどう変わるのか?

2022年(令和4年)10月の法改正により、確定拠出年金制度(DC)の要件が緩和されます。それにより、加入要件を満たすことで、企業側の規約に定めがなくとも、企業型DCとiDeCoを併用することができるようになります

掛金に月額2万円の上限(確定給付企業年金制度(DB)等の他制度に加入している場合は月額1.2万円の上限)はあるものの、改正前と比べて企業型DCとiDeCoの併用がしやすくなりました。

例:事業主掛金2万円だった場合

ただし、企業型DCとiDeCoの掛金の合計が55,000円の範囲内であること、企業型DCのマッチング拠出(企業の掛金に従業員が掛金を上乗せする制度)との併用ができないなどの注意点もあります。加入を検討する場合は、まずお勤めの企業の担当者の方に、iDeCoに加入できるかどうかを確認してみてください。

そのほか、今回の改正では次の要件が緩和されることとなっています。

①給付金の受給開始年齢の拡大

現在は60~70歳までの間で給付金をもらう年齢を自分で選択することができますが、改正後は60~75歳までとなり、上限が5年伸びることになりました。

②iDeCoの加入対象者の拡大

現在は国内在住の20歳以上・60歳未満で、国民年金へ加入している方が加入対象となっていますが、改正後は条件に合致すれば65歳未満まで加入することができるようになります。

※詳しい条件についてはこちらをご覧ください。
iDeCo公式サイト

企業型DCとiDeCo併用の利点・注意点

法改正により、企業型DCに加入している方にとっては、iDeCoを併用するという選択を取りやすくなりました。そこで、併用することの良い点や注意点について簡単にまとめました。

(1)企業型DCとiDeCo 併用の利点

①拠出可能枠を有効に使うことができる

前述のとおり、企業が掛金の上限まで拠出していない従業員は、iDeCoに加入できないことにより、拠出可能な枠が残っていても使うことができない状況でした。法改正でiDeCoの併用が可能になることにより、残余枠を使えるようになります

②投資対象商品の選択肢が広がる

企業型DCは投資対象となる商品を企業側が選定しており、従業員はその中から商品を選択しています。一方、iDeCoは自由に商品を選択することができるため、選択肢が広がる場合があります。

(2)企業型DCとiDeCo 併用の注意点

①運用商品の結果によって給付額の増減がある

iDeCoは投資であるため、運用商品の結果によって給付額が増えることもあれば、減ることもあります。iDeCoは自己資金を使って運用しますので、リスクを踏まえてご自身の状況に合った商品や金額を選ぶ必要があります。

②手数料は自己負担となる

企業型DCの場合は運用のための手数料は企業負担となります。一方で、iDeCoは個人負担です。途中で掛金の減額や停止は可能ですが、iDeCoの加入を維持するために毎月必ず手数料が発生します。個人で手数料を払ってもiDeCoに加入した方がよいかどうかは、十分に検討する必要があります。

③マッチング拠出の方が掛金を大きく設定できる場合がある

企業の掛金に従業員が掛金を上乗せする「マッチング拠出」を企業側が認めている場合、iDeCoの併用よりも最大の掛金額を大きく設定できる場合があります(※)。マッチング拠出とiDeCoは併用できないため、ご自身の希望に沿ってどちらかを選択する必要があります。

※マッチング拠出は、企業側DCの掛金と同じ金額を従業員が上乗せすることができます。たとえば、企業側が2.5万円の掛金を拠出している場合、従業員は2.5万円まで上乗せすることができます。一方、iDeCoは2万円が上限となりますので、この場合はマッチング拠出の方が掛金を大きく設定できます。


ここまで、確定拠出年金制度の法改正についてご説明をしてきました。iDeCoとの併用を行わず、企業型DCだけを利用した方がメリットが大きい場合もありますので、会社の制度を理解した上で、どちらがご自身にとってよいのかを検討していただければと思います。

※法改正に関する詳細は厚生労働省のホームページをご参照ください。厚生労働省HP
※本記事は2022年8月時点での情報をもとに記載しています。

あわせて読みたい

就職、退職、転職の際には様々な手続きが必要です。今回は、転職時の健康保険についてまとめました。いざ直面した際に慌てることのないよう事前にしっかりとチェックをしておきましょう。 日本の保険制度 本題の前に、まずは[…]

あわせて読みたい

給与所得者の方は、自分の給与明細を見たときに「住民税」が控除されているのはご存知でしょう。個人事業主の方は毎年5月か6月に納付書を受け取り、自分で納税されているはずです。しかし、住民税の具体的な計算方法や、転職して引っ越した際に住民税はど[…]

\ 個別キャリア相談会 開催中!/

ご予約はこちら