【経営トップから学ぶ】なぜマックスバリュ北海道はV字回復できたのか?

2022年2月14日(月)、元マックスバリュ北海道株式会社 代表取締役社長 出戸信成氏を講師に迎え、オンラインセミナーを開催しました。出戸氏は、企業の承継、再生、買収、譲渡、これらすべてを経験した、北海道を代表するプロ経営者です。

事業承継を控える経営者、これから事業を引き継ぐ次期経営者、さまざまな企業の経営に携わるプロ経営者、将来企業経営に携わることを目指しているビジネスパーソンを中心に視聴いただきました。今回、REGIONS BASEでは、本セミナーで出戸氏が語った示唆に富むポイントの数々を、一視聴者として参加したリージョンズのコンサルタントが振り返っていきます。

M&A成長戦略セミナー概要

本セミナーは、出戸氏がこれまで経験した企業の承継、再生、買収、譲渡までのプロセスを、弊社コンサルタントと対談形式で語っていただくことで、経営者が志す事業成長のヒントをお伝えすることを目的として開催しました。

<出戸信成氏プロフィール>
1965年札幌市生まれ。
大学卒業後、キユーピー株式会社を経て、1994年に実父が社長を務める札幌フードセンター株式会社(2000年にマックスバリュ北海道株式会社に商号変更)に入社。1999年に取締役、2012年に代表取締役社長に就任。その後、2020年にイオン北海道株式会社と合併し、同社の取締役副社長を経て、2020年に退任。代表も含めて22年間、役員として経営に携わる期間で、合計7回もの合併や事業譲渡などの組織再編に携わる。
またイオングループとなった2003年から低迷していた業績を、2012年の社長就任後にV字回復させ、54ヵ月連続増収を成し遂げ、年商700億円・営業利益4億円から年商1,300億円・営業利益18億円まで成長させた。

「何の実績もあげてない奴が偉そうなことを言うな。まず実績をあげろ。」

札幌フードセンター株式会社に後継者として入社した出戸氏が叔父に言われた言葉です。

当時、まだ入社間もないなかで、会社の問題点をあれこれと親に指摘していた出戸氏ですが、この言葉を聞いて、「まず実績をあげなければ誰も付いてきてくれない。まずは実績をあげるために頑張らなくてはならない。」と考えるに至りました。しかし、なかなか成果が出ない日々が続いたそうです。花形の営業部門の責任者を外れて管理本部長への人事異動を言い渡され、出戸氏は悔しい期間を味わうことになります。

コンサルタントの振り返り
管理職として中途入社した社員に対しては、周りからの見る目も厳しくなるものです。とくに出戸氏のように大手企業からの転職の場合、当時の札幌フードサービスの、できていない部分がたくさん目についたのではないかと推測します。しかしそれを一方的に押し付けてしまっては反感を買ってしまうことも往々にしてあるものです。
出戸氏のように「まずは実績をあげてから」とした方が社内に受け入れられやすい場合もありますし、一方でそれでは遅いとドラスティックに変えていかなければならない場合もあるでしょう。自分の役割が承継なのか、成長なのか、再生なのか、企業ごとのフェーズによってやり方は柔軟に変える必要があるのだと思います。

「競争力がないまま出店を続け、勝ちパターンを失っていた。」

2003年にイオングループとなってからは、店舗数は増える一方で、既存店の売上は大幅に落ち込んでいきました。2000年には14.1億円あった店舗当たり売上が、2009年には10.4億円と約4億円も減少したことになります。札幌フードセンターは駅前の住宅密集地への出店ノウハウはあったものの、郊外型のスーパーマーケットはなく、イオンとしても新規事業としての位置づけでした。そうしたなかで規模拡大を目指し、店舗を作れば売れると錯覚してしまったことで競争力がなくなっていました。当時は、苦肉の策でディスカウント事業を開始し、赤字幅を縮小するのが精一杯だったそうです。

コンサルタントの振り返り
類似ケースとして近年思い起こされるのは、某飲食チェーンではないでしょうか。店舗数を増やすとともに既存店売上が落ち込み、大幅な方針転換を余儀なくされたとメディアでも話題になりました。この場合は、既存店間で競合してしまったことが一因と言われていますが、札幌フードセンターの場合は、これまでのノウハウが通用しない郊外に店舗を広げたことで苦境に立たされてしまったようです。

「思い入れのある会社の最後かもしれない。それなら自分に社長をやらせてほしい。」

誰がやっても上手くいかないと言われ2年おきに社長が代わっていました。そうしたなかの2012年、まだ先が全く見えない状況下で、当時の5代目社長が急逝されてしまいます。そのとき、出戸氏は「これがマックスバリュ北海道の最後かもしれない」と感じたそうです。

リーマンショック後で業界再編が進んでおり、子どものころから思い入れのある会社が結末を迎えてしまうかもしれない。「それなら自分に社長をやらせてほしい」と出戸氏はイオンの岡田社長(現:会長)に懇願することとなります。

コンサルタントの振り返り
「お前にやらせて本当に上手くいく保障はあるのか」とも言われたそうです。そこで、裏付けがなくても「絶対やります」と情熱だけで社長就任を取り付けました。それまでになんと40回もお願いしたそうです。出戸氏のマックスバリュ北海道への愛情、思い入れの凄まじさを感じるエピソードです。
プロパーであろうが、社外からの登用であろうが、ファンドが雇ったプロ経営者であろうが、どのような経緯であっても「経営者が一番会社を愛していること」が成功の絶対条件だと思っています。その強い思いがあるかどうかは、経営者と話をしていてすぐに感じ取ることができます。

「社長、売上なんか上がるわけがないですよ。」

出戸氏が社長になってはじめにやったことは、約80店舗すべての店を回り、店長に話を聞かせてもらうことでした。みんながどう思っているのか、共通している問題は何か、藁をもつかむ思いで情報を集めたそうです。

小売業は売上が上がって、以前よりお客さんがたくさん来てくれて、喜んで買い物をしてくれる、これで元気が出ます。しかし、出戸氏が店長から聞いた言葉は、「社長、売上なんか上がるわけがないですよ。」という諦めでした。

2000年から既存店売上が減り続けて12年にもなり、そう思うのも仕方がありません。出戸氏も同じように感じていたそうです。しかし、2010年にディスカウントストアを始めたとき、お客さんが戻ってきてくれて、涙が出るほど嬉しかった経験がありました。売上を上げるのはやり方次第、そのためのプランを探し出すことが重要だと思ったそうです。

コンサルタントの振り返り
店長も売上を上げたいとは思っているはずです。でも心の中は、諦めで支配されてしまっている。長年売り上げが減り続けると、それが習い性になって、どうにもならない状況だったことが感じられます。それを変えられるのは、やはり経営者しかいないのだと思います。現場の力を信用しつつ、一方で任せきりにしないで、出戸氏が自分で現場に赴いて、自分で考え続けている姿を思い浮かびます。その行動の源泉になったのが、お客さんが戻ってきてくれたとき感極まったエピソードだということに、出戸氏の人柄が表れているように思います。

「マックスバリュ北海道の売上が良いのはなぜ?」

2013年ごろからスーパーマーケット事業が上向いていきます。

値段のつけ方や品ぞろえの在り方など、一つひとつのパターンが暗黙知で積み上がったことが、既存店の売上を伸ばし、黒字転換した理由です。イオンの広報担当役員から、「マックスバリュ北海道の売上が良いのはなぜ?」と聞かれても、理由があまりにも地味すぎてPRにならないと言われたこともあったそうです(笑)。

また他社から言われたことは、意思決定が速いということでした。どうやったらいいのか分からないから、試してダメだったら止める。金曜に提案したら月曜に決裁して、その週末にはさらに拡大するか止めるが決まっている、ということを繰り返していたそうです。

コンサルタントの振り返り
事業再生は革新的なアイディアやビジネスモデルの変更といったイメージを抱きがちですが、決してそうではないことが分かります。今回のセミナーで出戸氏が一貫して言っていたのは、「運が良かった」「社員が頑張ってくれた」ということです。謙遜されている部分もあるとは思いますが、セミナーで語られたこと以上に、毎日の地味なことの繰り返しがあったということが想像できます。

「売上が昨年より悪かったら、恥ずかしくて店長会議いけませんよ。」

それから既存店の売上が伸び続け、2015年ごろには、店長から「売上が昨年より悪かったら、恥ずかしくて店長会議いけませんよ。」と言われました。このときに大きな気持ちの転換があったなと実感したそうです。みんな、昨年を超えるのが当たり前という気持ちになっちゃったなと。これは昨対増が事実として積み重なったことで、根拠はなくてもいけるだろうという感覚が芽生えていたからです。

コンサルタントの振り返り
社員のマインドの変化を生み出したことに、あらためて出戸氏のすごさが分かります。会社は歯車のように一度かみ合って動き出せば、いままでがウソだったかのようなスピードで走り出すという好例だと思います。最初のローギアで動き出すところが一番苦しい。目に見えるか分からないような成功体験からスタートして、それをひたすら積み上げることが偉大な企業への必要なプロセスなのだと感じました。

「M&Aを成功させるポイントは、成功させることだけ」

出戸氏はこれまで7回の合併や事業譲渡といったM&Aを経験してきました。鶏が先か卵が先かという話ではありますが、出戸氏曰く、M&Aを成功させるポイントは、成功させることだけだそうです。みんな以前より悪くなってしまったら気持ちが戻ってしまう。苦しかった12年間に戻りたくないという思いで、明日良くなることが見える状態にして、社員の気持ちを一つにしてきたそうです。

コンサルタントの振り返り
事業再生でもM&Aでもつまるところ、最終的には人(社員)であり、一人ひとりの気持ちなのだと思います。セミナーの冒頭で出戸氏は「小売業は働く場所としてはイメージが悪く、仕方なく就職する人が多い。自分が(社長を)やるのであれば、子どもたちが入社したいと思えるようなそういう業界にしたい」と言っています。今日よりもたくさんのお客さんに来てもらえる明日が想像できることは、社員の皆さんにとって胸を張って仕事ができる最高の場所だったのではないでしょうか。

セミナーを終えて

出戸氏の会社を何とかしたいという強い想いが社員に伝播していく様子が伝わってきました。既存店売上が下がり、社員が下を向いている……その状態からのV字回復は、今回語られたこと以外にも多くの苦労があり、ドラマがあったはずです。しかしすべては地味な一歩一歩の積み重ねでしかありません。

「今日より明日」、その希望の火を灯すことが、経営者の役割=経営の要諦であることを出戸氏から学びました。

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