コロナ禍のテレワーク普及やDX化の推進によって、Uターン転職を検討される方が増えていますが、Uターンの際に、国や地方自治体が実施する助成金制度が活用できることをご存知でしょうか?もちろん一定の条件を満たす必要があるものの、最大100万円の支援を受けられるケースもあり、自治体によっては申請多数のため既に今年度の受付を停止している地域もあります(2022年9月時点)。今回は、Uターン転職の際に知っておきたい移住支援金についてご紹介します。
監修:笹本 香菜(Sasamoto Kana)
北海道函館市生まれ。小樽商科大学を卒業後、同大学修士課程、博士課程に進学。経営学を専攻し、企業に対するフィールドワークに携わる。その後、国立大学に入職し経営戦略論担当助教として研究・教育に従事。2019年、地域密着型のビジネスで「人と企業の永続的な成長」を実現しようとする姿勢に強い魅力を感じ、リージョンズ株式会社に入社。
移住支援金について
一口に移住支援金といっても、支援元によって条件や支給額などは様々です。大きく分けると、次のように分類されます。
- 国の地方創生移住支援事業に基づく支援金
- 地方自治体が独自に行っている支援(住宅、就職、就農、起業、結婚、子育て支援など)
このうち、より一般的なのが、国の地方創生移住支援事業に基づく支援金です。
最大100万円支給|地方創生移住支援とは?
そもそも地方創生移住支援事業は、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)における人口の一極集中の回避や、地方の担い手不足の解消を目的として創設されました。こういった背景から、支援金の支給対象者が東京圏からのUターン者に限られてしまう点には注意が必要です。
同事業は2019年から始まり、以降6年間を目途に実施される予定で、国の事業ではあるものの地方自治体が主体となって運用しています。細かい条件等、各自治体によって異なる点もあるので、事前の確認は必要ですが、国が出している支援金のため基本的には全国一律に設定された条件のもと運用されています。まずは、その内容を確認しましょう。
条件
【移住元】東京23区の在住者 or 東京圏から東京23区へ通勤している方
※移住直前の10年間で通算5年以上、東京23区に在住または東京圏に在住し、東京23区へ通勤していた方
※ただし、直近1年以上は、東京23区に在住または通勤していることが必要
【移住先】東京圏以外の道府県もしくは東京圏の条件不利地域への移住者
※移住支援事業実施都道府県・市町村に限る
※申請後5年以上、継続して移住先市町村に居住する意思があること
【就業等】地域の中小企業等への就業やテレワークにより移住前の業務を継続、地域で社会的起業などを実施
支給額
世帯 100万円
単身 60万円
※ただし、地方公共団体が独自の支給額を設定している場合もあります
出所:移住支援金 内閣府地方創生推進事務局(最終閲覧日:2022年9月16日)
上記のように、細かい条件が定められているため、まずは自分が条件を満たすかどうかを各自治体のホームページを参考に確認するところから始めましょう。なお、移住支援事業を実施している自治体に関しては、下記より確認できます。
参考:令和4年度「地方創生移住支援事業」実施都道府県・連携市町村一覧 (最終閲覧日:2022年9月16日)
また、たとえすべての条件を満たしていても決められた手順にそって申請をしなければ補助金を受け取ることはできません。概ね、「移住後3ヶ月以上1年以内」に申請を行うことをルールとする自治体が多いようですが、こちらも各自治体のホームページにて確認するとよいでしょう。
ちなみに、情報収集には「ふるさと回帰支援センター」の活用もおすすめです。同センターは、東京・有楽町にある移住相談窓口で、全国各地の地方暮らしに関する資料も充実しており、移住先が未定の方も含めて個別相談に応じてくれます。最近では、地方の担当者に直接相談ができるオンライン面談の場も提供しており、個別具体的な相談や情報収集が可能です。
参考:ふるさと回帰支援センター (最終閲覧日:2022年9月16日)
実は支給を受けるのは難しい?地方創生移住支援事業の落とし穴
就業先の条件に要注意
本支援を受けるにあたってハードルになりやすいのが、「地域の中小企業等への就業やテレワークにより移住前の業務を継続、地域で社会的起業などを実施」という条件です。
この記事の読者は、とくに「地域の中小企業等への就業」によるUターンを検討されている方が多いと思いますが、就業先に関しては下記要件が定められています。
- 移住支援金の対象として都道府県のマッチングサイトに掲載されている求人に就業すること
- または、プロフェッショナル人材事業または先導的人材マッチング事業を利用して就業すること
(※ いずれも、主に人材面から地方企業の成長等を図ることを目的とした内閣府の支援事業)
要するに、条件を満たすためには就業先となる企業が、公式のマッチングサイトに対象求人を掲載しているか、もしくは、プロフェッショナル人材事業等の支援に基づいた採用活動を行っていなければ、支援金を受け取れないということになります。最近は、都道府県によっては「応募をした日よりも前に、対象求人がマッチングサイトに掲載されている必要がある」という旨を明記しているケースもあり、要件の審査はかなり厳しくなっているように見受けられます。
とはいえ、地方の就業先は、マッチングサイトに求人掲載をしている企業やプロフェッショナル人材事業等を活用している企業に限りません。むしろ、支援対象外の求人も地方には数多くあります。
Uターンをする場合、引越し等のことを考えると、支援金を受け取れるか否かは確かにひとつのポイントにはなりますが、重要なのはUターン先でどのようなキャリアを歩むかという長期の視点です。地方での就業先を検討する際には、公式のマッチングサイト等だけではなく、様々な方法で複数の求人情報を集め、複合的な観点から応募先を検討するのが良いでしょう。
申請受付を停止している自治体も
2022年9月時点で申請受付を停止している自治体が出始めているということにも注意が必要です。たとえば、北海道札幌市では申請多数により予算の上限に達したため、2022年8月にて本申請の受付を停止しています。 (ただし、支給対象者の人数を把握するための予備申請書は引き続き受け付け中です。この場合、本支援金の交付は確約されていません。詳しくは、札幌市のホームページをチェックしましょう)
実は、2019年度の運用開始以来、各自治体の支援実績は毎年増加傾向にあります。内閣府地方創生推進事務局が発表した昨年度までの地方創生移住支援事業の支援実績を見ると、北海道は前年比で約3倍、宮城県、茨城県、栃木県にいたっては、前年では一桁の実績だったのが一気に40件以上に伸びていることがわかります。移住支援金の認知度が高まるにつれ、申請数も増加していることが予想されるため、申請可能になった時点でできる限り早めに手続きを行うことをおすすめします。
参考:地方創生移住支援事業実績(令和元年度~3年度) 内閣府地方創生推進事務局(最終閲覧日:2022年9月16日)
自治体独自の支援金もチェックしよう
国の地方創生移住支援事業による移住支援金とは別に、地方自治体が独自に支給している支援金(たとえば住宅、就職、就農、起業、結婚、子育て支援)もチェックしておくとよいでしょう。ここでは、少しだけ事例をご紹介します。
北海道旭川市|旭川市山村定住促進補助金
北海道旭川市では、旭川駅から車で20分程度にある江丹別地区を振興地域に指定しており、地域外から江丹別地域へ転入し、地域の住民として居住する方が住宅等を購入する場合、その費用の一部を補助しています。具体的には、住宅の新築工事や建売住宅の購入、住宅の増築や改修、住宅を建築するための土地購入などの費用に対して、「費用の50パーセント以内で上限300万円」の補助金が支給されるので、移住後、お得にマイホームを建てることが可能です。
宮城県山元町|県内最高水準の住宅取得支援
宮城県山元町は、移住者に対する手厚い住宅関連支援が魅力の町です。具体的には、新規転入者や新婚世帯、子育て世帯を対象に、最大370万円の住宅取得支援の補助金を提供しています(※4人世帯で各補助要件に該当する場合/中古住宅は最大200万円)。また、新婚世帯や子育て世帯を対象に最大60万円の補助金を提供するリフォーム支援や、新規転入者で町内に新規就業する方や新婚世帯、子育て世帯を対象としたアパートの家賃補助制度(最大2万円を24ヶ月間)も用意されており、これらの住宅支援は県内最高水準といわれています。
栃木県小山市|新幹線定期代の一部補助
栃木県小山市は、東京圏へ通勤する住民も多いことから新幹線定期代の一部補助制度が設けられています。具体的には、新卒の方や転入した方(申請者もしくは配偶者が39歳以下または15歳以下の子がいる)に対して、「東北新幹線」・「東海道新幹線」の新幹線定期券代の購入費用を、月額1万円を限度として最大36カ月補助しています。東京駅まで新幹線で約40分の小山市ならではの補助制度といえるでしょう。
具体例をいくつか紹介しましたが、自治体独自の移住支援については、支援の内容や申請条件がそれぞれ異なります。移住先によって支援内容が大きく変わる可能性があるため、移住先を決める前に、複数の自治体の支援内容を比較検討してみるとよいでしょう。
企業もUターン人材採用に積極的なワケ|中途採用等支援助成金
これまで移住者に支給される支援金について紹介してきましたが、一方で、企業側もUターン人材を採用することで国や地方自治体から助成金の給付を受けられるケースがあります。
たとえば、厚生労働省では「中途採用等支援助成金」を設け、そのなかで、東京圏からの移住者を雇用した事業主に対し採用活動に要した経費の一部を助成しています。その背景としては、移住者に対する支援と同様、東京圏の人口一極集中の回避や、地方の担い手不足の解消が目的です。もちろん、全ての採用企業がこうした助成金を活用しているわけではありませんし、移住者が助成金の恩恵を直接受けられるわけではありません。ただ、こういった制度の整備により、積極的にUターン人材の採用を進める地方企業が増えてきているのは確かです。
それに伴い、優秀なUターン人材の確保に向けて、独自の支援を提供する企業も増えました。たとえば、就業に伴う引越し代を負担している企業や、住居に困らないよう社宅を提供している企業、なかには東京圏からの転職に伴う年収下落に対し調整給を提供する企業もあります。こうした企業独自の福利厚生や待遇については、求人票等では十分に把握できないケースもあるため、地場の紹介会社などを活用し、個別に確認するのがおすすめです。
おわりに
以上、Uターン転職の際に受け取れる移住支援金の種類や内容、状況について、具体的にイメージしていただけたのではないでしょうか。条件を満たせばお得にUターンを実現することが可能ですし、なによりも、移住支援やUターン人材の採用支援が充実している今は、「暮らしたいところで思い切り働く」ということを実現しやすいタイミングとも言えます。この機会に、Uターン転職について真剣に検討してみてはいかがでしょうか。
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