給与所得者の方は、自分の給与明細を見たときに「住民税」が控除されているのはご存知でしょう。個人事業主の方は毎年5月か6月に納付書を受け取り、自分で納税されているはずです。しかし、住民税の具体的な計算方法や、転職して引っ越した際に住民税はどうなるのかなど、意外とご存じない方も多いのではないでしょうか。今回は「個人住民税」について詳しくご説明します。
住民税とは?
住民税には個人が負担する「個人住民税」と、会社などの法人が負担する「法人住民税」があります。給与から控除されているのは個人住民税です。
住民税は地方税の一種であり、その地域に住む人たちが地域社会の費用を分担するもので、「市町村民税(東京都23区内は特別区民税)」と「都道府県民税」があります。この住民税は公共施設、上下水道、ごみ処理、学校教育といった行政サービスの財源となっています。
個人住民税の課税地域
個人住民税はその年の1月1日に居住している場所で課税されます。年の途中で住民票を移しても、直ちに転居先の居住地域に納めることにはなりません。これは行政手続の簡易化を図るためのものであり、新しい居住地域で行政サービスも受けられますのでご安心ください。
個人住民税の徴収方法と徴収時期
住民税の納付方法は「特別徴収」と「普通徴収」という二通りの方法があります。給与所得者は原則として特別徴収で納付することになります。
「特別徴収」とは、給与を支払う会社が社員の給与から天引きして、会社がまとめて市区町村に納税する方法です。1月~12月までの所得によって個人住民税の額が決まり、翌年6月~5月の12ヶ月にわたって天引きされるのが通常です。給与所得者の方は基本的に特別徴収によって納税を行っています。
「普通徴収」は、主に給与所得者以外の方が自ら納税を行う方法です。納税通知書が自宅に郵送されてきますので、それに基づき自分で納付することになります。なお、6月末に一括で納付するか、6月・8月・10月・翌年1月の4回に分けて納付するか選択できようになっています。手続きをすれば口座振替で納付することも可能です。
会社を退職する際に必要な手続きについて
住民税の支払期間は毎年「6月から5月」までの1年間を区切りとしています。そのため、転職などで会社を退職する時期により、継続して特別徴収を行うことができない場合や、特別徴収から普通徴収に切替える場合があります。下記3つのパターンのどれに自分が当てはまるか必ず確認をしましょう。
①退職日が1月1日~4月30日までの場合
現在お勤めの会社で残りの住民税を一括徴収しなければならず(地方税法第321条の5第2項)、最後の給与や退職金から5月までの住民税が控除されます。これを一括徴収といいます。
最後の給与や退職金から一括徴収の金額を差し引きし、マイナスとなる場合は、差額を普通徴収で納付する必要があります。
②退職日が5月1日~5月31日までの場合
この場合、未納の住民税は5月分のみとなりますので、毎月と同額の住民税額が最後の給与から控除されます。
③退職日が6月1日~12月31日までの場合
上記①の場合と同じく、最後の給与や退職金から翌5月までの住民税を控除してもらうことも可能です。ただし、金額が大きくなってしまうため、状況に応じて以下のように納付することができます。
(1) 転職先が決まっており、期間が空いていない場合
転職先で特別徴収してもらうことができます。転職先で手続きが必要になりますので、現在お勤めの会社に「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」という書類の発行を依頼しましょう。発行されたものを転職先に提出すれば、担当者が市区町村へ届け出ることで、特別徴収が継続となり、給与天引きをしてもらえるようになります。
(2) 再就職まで期間が空いてしまう場合や、転職先が決まっていない場合
ひとまず普通徴収に切替える必要があります。退職時に普通徴収へ切り替える旨を会社へ伝えることで、会社側で手続きをしてもらえます。普通徴収に切替えると、納付時期に地方自治体から納付書が送られてきます。納付書には納期限が記載されており、再就職前の期限のものは自分で納付する必要があります。再就職した時点で期限がきていないものに関しては特別徴収に切替えられる場合がありますので、転職先の担当者にご相談ください。
住民税の金額と税率
個人住民税は下表の通り、均等割と所得割があり、それぞれ金額と税率が決められています。1月1日から12月31日までの所得金額によって翌6月~5月までの個人住民税が計算されます。
引用:財務省HP(最終閲覧日:2022年6月10日)
均等割(地域差に注意)
収入がそれほど変わっていないのに、引越をしたら住民税が高くなった、もしくは低くなったと感じたことはありませんか?または噂で、あの市は住民税が安いらしいという噂を聞いたことはありませんか?結論からいうと、均等割に関しては、地域差は確かにあり、地方自治体ごとに、財政上や必要と認められた場合に定められた上限の範囲内で変更することができます。気になる方は転居先の制度を調べておくと良いでしょう。
財政破綻した北海道夕張市では10年にわたり財政再生のための歳入確保策の一環として超過税率年額500円を徴収していました(現在は市民負担軽減のため超過税率はなくなりました)。横浜市では、緑を守り、つくり、育む取組を進める「横浜みどりアップ計画」の財源の一部として平成21年度から令和5年度まで年額900円を均等割の税率に上乗せしています。他にも、宮城県「みやぎ環境税」年額1,200円、栃木県「とちぎの元気なもりづくり県民税」年額700円、茨城県「森林湖沼環境税」年額1,000円などがあります。
所得割(転職後の住民税額に注意)
所得割の地域差はなく、全国どこでも一律で、所得金額の10%です。ただし、一般的に個人住民税の大部分を占めるのは所得割であり、所得金額に応じて大幅に増減することもあるため注意が必要です。「所得金額の10%」の個人住民税を翌6月から5月にかけて支払わなければいけませんので、転職によって収入が下がる見込みの場合や、転職先が見つからず収入がないという場合も、直ちに住民税額が減額されることはありません。減免措置なども基本的にはありませんので、所得金額が大きく変わることが予想される場合には、事前にシミュレーションしておくことをお勧めします。
各地方自治体のHPに、前年の源泉徴収票から個人住民税のシミュレーションをすることができるサイトが紹介されている場合があります。試算された税額は確定額ではありませんが、目安としてご活用いただけることでしょう。
ここまで、個人住民税について解説をしてきました。退職日によって納付方法のパターンが異なりますので、自分はどのパターンが当てはまるのかを事前にチェックし、適切な手続きを行えるように備えておきましょう。また、住民税には地域差がある場合もあります。気になる場合は転居先の制度を調べ、シミュレーションを行ってみることもお勧めします。